本の感想
朽ちていった命 被爆治療83日間の記録
NHK「東海村臨海事故」取材班著 新潮文庫 2006年
1999年9月30日。そうだった。
アメリカに行く前で、行きたくなくて、こわくて頭の中ひっちゃかめっちゃかってころだ。
報道が大騒ぎして、それでなくても大変なことが起きた、と思った。臨界だって??
これは、作業をしていて大量被爆した大内久さんの病状と経過、スタッフたちの奮闘と心情を伝える本。
その瞬間、青い光が走った。大内さんは逃げて、嘔吐して意識を失った。けど、外見上はふつうで、入院先の看護婦さんも「あれ?」って思うような感じだった
みたい。
だけど、実際には染色体が破壊されていた。
皮膚や腸の粘膜は、どんどん細胞が新しくなって入れ替わってるんだって。だけど染色体(細胞の設計図ですね)が壊れているから、新しい細胞ができない。皮
膚が次第にむけて、ヤケドのようになって……見るだけでも痛そう(写真がある)。からだの半分の皮膚がそんな。想像できない苦痛なのでは……。
これほどの放射線を浴びて、これほど長く生きたひとは初めてだから、医療チームも手探り。祈るような気持で治療していたのだと思う。だけど、通常の病気と
違って、からだそのものが朽ちていく。治る力がない。手の打ちようがない。
逆にいうと、普段当たり前のように思っている身体が、どんなにすごいことをしているかってことだ。なんて精巧にできてるんだろう。ほとんど奇跡だ……。
医療チームの苦悩も深い。命ってなんだろう、治療ってなんだろう。ひとりひとりが悩む。正解なんかなくて、悩み続ける。おなじ体験から違う結論を導き出す
ひともいる。
あらためて、命はなんて尊いものか、と思う。
でもいまの時代、命は大切にされてない。お金より軽かったり、経済より軽かったり、発展より軽かったり。ほんとにそうですか、それでいいんですか、と問い
かけられた。
ひとりひとりの人間(自分自身も含め)、ひとつひとつの命が素晴らしいもので、大切。
それを単なるお題目にするんじゃなく、実践して生きるために、まずは自分を大切にすること。嫌ったり責め苛んだりをやめること。やっとそういう意識が芽生
えてきたところ……かな。(2008.2.28)
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